恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。
「そうだったんですね、寂しくなります」
私も笑みを返した。
記憶がなくても、雅臣先輩は私の恩人だ。こうして奇跡的に電車で出会う事もなくなるのだと思うと、やっぱり寂しかった。
それは恋ではなく、尊敬する先輩として。
そうだ、景臣先輩の事、弟の雅臣先輩なら何か知っているのではないだろうか。
「雅臣先輩、すみません。少しだけ話を聞いてもらえませんか?」
そう思った私は、思い切ってお願いする。
雅臣先輩は一瞬驚いた顔をして、すぐにフワリと笑った。
「もちろん、俺も君に話たい事があるから」
こういうなんでも受け容れてくれるような温かい雰囲気。記憶がなくても、変わらないんだな。
昔を思うと、雅臣先輩への初恋を思い出す。
やっぱり、ちゃんと区切りをつけないと。景臣先輩への想いを見失わってしまわないように。
そんな決意を胸に秘めて、私達は雅臣先輩の高校の最寄り駅で降りた。
そして前にも来た、駅前の公園にやってくる。
屋根付きのベンチにふたりで座ると、秋の風が私たちの間を静かに吹き抜けた。
「そうだ、話って?」
「あ、あぁ……あの、ですね」
ついに、この時が来た。
私は緊張で吐きそうになりながら、深呼吸をして雅臣先輩に向き直る。
「雅臣先輩」
「うん」
「……雅臣先輩は……その、覚えてないかもしれませんが……」
「え?」
「雅臣先輩が中学3年生の時、私達は出会ってるんです」
そう、雅臣先輩の記憶が失われた今では、私の中にしかない夢や幻のような時間。
あの日々が、雅臣先輩から消えてしまったと思うと切ない。
でも、涙は出なかった。
それはきっと、雅臣先輩がくれた居場所以上に、温たかい場所をくれた人たちがいるからなんだろう。