恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。
私が顔を上げようとすると、その前に腕を引かれる。
そして景臣先輩の吐息が唇にかかるほどに、距離が近づくと──。
「好きだ──……」
囁きと共に強く押し付けられる唇。嵐のように触れた温もりに、私の心臓は大きく跳ねた。
でも、不思議だ。始めは緊張で強張っていた体も、次第にほぐれていく。
与えられる温もりに、すべてを委ねようと思えた。
どのくらいの時間、そうしていたのだろう。
ゆっくりと名残惜しむように唇が離れた時には、私の荒ぶっていた感情は落ち着いていた。
悲しさの代わりに、愛しさが私の体を満たしている。
「……清奈、離れていても俺たちは一緒だ」
コツンと額をくっつけてくる景臣先輩と至近距離で見つめ合いながら、私は頬を伝う涙もそのままに頷く。
「景臣先輩、私……どこにいてもあなたに会いに行く」
「え?」
「他の誰でもなく、景臣先輩に会いに行きますから!」
初めて、高校の古典研究部の部室を訪れた時とは違う。
藤原景臣というたったひとりの、大好きな人に会いに行く。
だから、今度は罪滅ぼしのために私を待つのではなく、もっと幸せな気持ちで再会を楽しみにしていてほしい。
「──ずっと、清奈を待ってる」
「はい……っ、卒業したら、必ず会いに行きます」
「あぁ、絶対に会おう」
「っ……はい、必ず!」
彼に笑いかけた瞬間、電車がホームに到着した。
扉が空いて、人が雪崩のように降りてくる。
その中で彼の両頬を手で包み込むと、背伸びをして静かにかすめるようなキスをした。
「景臣先輩……行ってらっしゃい!」
私の行動に目を見張っていた景臣先輩の顔が、ゆるゆると柔らかな笑みをたたえる。
離れていても君が私の笑顔を思い出せるように、私も精一杯の笑顔を君に贈ろう。
そう思った私は、口角を持ち上げて全力で笑う。