恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。
「っ……山の頂から流れ落ちてくる川が、細々としている流れから次第に水かさを増して深い淵となるように──」
雅臣先輩はまだ驚きを隠せないような顔つきで、淡々と私の詠んだ和歌の解説をする。
意味を暗記しているこの人は、まぎれもなく雅臣先輩だ。
だから私は君が好きだという気持ちを込めて、意味の続きを語った。
「恋心も次第に募って、今は深く……大きくなっています」
雅臣先輩、これは君がしてくれた告白の返事です。
ちゃんと……伝わっていますか?
どこか祈るような気持ちで、じっと先輩の瞳を見つめる。
雅臣先輩は一瞬キュッと唇を引き締めると、取り繕うような笑みを私に向けた。
「百人一首13番、陽成院(ようぜいいん)の恋の和歌だな、清奈」
「はい」
──あれ……?
名前を呼ばれた感覚に、違和感があった。
記憶の中の雅臣先輩はもっと明るく、やわらかい木漏れ日のように私の名を呼んでいた。
なのに今は……少しだけ苦しそう。
私の名前を呼ぶその声に、切なさが混じっている気がした。
どうして……雅臣先輩なら喜んでくれると思ったのに。
もしかして、他に好きな人ができたとか……?
困惑が混じった微笑みに、ズキリと胸が痛む。
期待していたぶん、ショックも大きかった。