恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。


「うん、絶対に諦めたりしないから!」


私は記入済みの進路希望調査票を見つめて、「ふっ」と笑をこぼす。

そこに書かれているのは──。


【希望する進路】
────────
 古典の教師
────────

しっかりとした文字で書かれたそれは、私のまだ見ぬ未来の姿。

それを見て、私は自分に誓うように強く頷く。

──これが、私のなりたいモノ。

──ようやく見つけた、私の進みたい道。

そう心の中で断言すると、まるで人生の宝物を見つけたみたいに心が温かくなる。

この道を貫こう。その思いがストンッと胸に落ちてきた。




──そして、さらに1年の月日が過ぎ、桜が吹雪く春の季節がやってきた。

この四月、私は紫ちゃんと同じ文学部のある大学に入学する。

紫ちゃんは小説家に、私は古典教師になるためにだ。

そして、1年前に卒業した業吉先輩も古典教師になるため、私達がこれから通う事になる大学にすでに通っている。


「清奈ちゃん、古典研究サークルがあるよ」

「ふふっ、本当だ」


大学の入学式を終えた私達は、廊下にあるサークル紹介の掲示板を見て顔を見合わせる。

そして、どちらともなく笑いあった。


「清奈ちゃん、先輩達もう部室にいるのかな」

「自由見学の時間だもんね」


そう、今はサークルや校舎を自由に見学できる時間。

私達は校舎案内図を見ながら、迷わず部室へと向かう。

大学は広い中庭を囲むようにして校舎が建っており、窓がやたら多く光がたくさん差し込んでいる。

そして驚くべき事にカフェやフードコートまで完備されていて、これからの学生生活に心が踊った。


「清奈ちゃん、緊張してる?」

「うん、まぁ少しね」


あの人に会えると思うと、心臓が早鐘を打つ。

会いたいのに、どうしてか逃げたい衝動に駆られるのだ。

少し大人になった私を見た君は、何て言うのかな。

全然変わってないって言われたらどうしようなんて、君に恋をしてからの私は少しだけ臆病になった気がする。


「おーい、清奈、紫ー!」


声が聞こえた先に視線を向けると、廊下の向こうから金髪のヤンキーが走ってくる。

相変わらずガラが悪いなと、私は紫ちゃんと苦笑いで手を振り返した。


「業吉先輩、まだその髪色なんですね」


そばにやって来た彼を見上げて、私はクスッと笑う。

業吉先輩の貴重な黒髪を見られたのは、大学受験の時だけだった気がする。

とかなんとか言いながら、この金髪が恋しいのもまた事実だ。
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