恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。


「……小泉、清奈」


ふと名前を呼ばれて、私は雅臣先輩をまっすぐ見つめる。
目が合うと彼の瞳はほんの少しだけ揺れて、ゆっくりと細められていく。


「会いたかった、ずっと」

「っ──!」


喉に、吐き出そうと思っていた息が詰まった。
トクンッと心臓が、静かに、密かに、ときめく。


「え……?」


会いたかったなんて……。

どうして、それを今になって言うのだろう。

破れたと思っていた恋が、そうじゃなかったと期待してしまいそうになる。

ここで諦められた方が、傷つかないで済むのに。

でも、そのひと言で私はやっぱり君が好きなのだと思い知らされた。


あきらめるなんて、無理だよ……。


「私も……会いたかったですよ」


だから、希望をたくしてそう伝えた。

願わくば、雅臣先輩も私と同じ気持ちでありますようにと。


「っ……そうか」


──雅臣先輩……?

そう言った雅臣先輩は、なぜか泣きそうな顔で微笑む。


それはどこか……悲しみと安堵といった、相反する想いを同時に胸に飼っているかのような、複雑な表情だった。

< 26 / 226 >

この作品をシェア

pagetop