恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。
「……あ、の……」
けれど、物部さんはそれっきり何も話さない。あげく、唇を噛んで俯いてしまった。
なんだろう、話なんてなかったのかな。だとしたら、ずっと見つめてるのも迷惑だよね。
物部さん、私が話しかけるとよく困った顔してるから。
「えっと……おはよう」
悩み抜いた末、それだけ言って私は鞄から本を取り出した。
今日も百人一首。ただ、同じ百人一首でも、解説の仕方が本によって違うから面白い。
読み手によっては意味もほんの少し変わるから、奥ゆかしくて楽しいんだ。
中でも、紫式部の和歌はいい。
「めぐり逢ひて 見しやそれとも わかぬ間に
雲がくれにし 夜半の月かな」
小さな声で、口の中で歌を転がすように私は呟く。
これは恋の和歌で溢れる百人一首の中でも珍しい、友情をテーマにした和歌だ。
文字の使い方からして、一見恋の和歌に思えるが、久しぶりに会った友達への寂しさを詠っている。