恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。


「私は本当に、紫ちゃんがすごいなって思っただけです。私にはない輝きを持ってるといいますか……」

「清奈にない輝き?」

「はい、自分を持ってるんです。紫ちゃんは……」


ざあっと雨の大合唱が鳴る中、傘から落ちる雨だれが肩を濡らす。

駅までは道路沿いの桜並木道を真っ直ぐ進み、時々あるレンガ造りのパン屋やクリーニング屋を超えた先にある。

大体10分くらい歩くので、駅につく頃には靴も肩もびしょ濡れになっている事だろう。

でもなぜだか、それを憂鬱には思わない。

たぶんだけれど、大好きな人と一緒だから、どんな事でも幸せに思えるのだ。


「なんだ、それなら清奈だってあるだろ?」

「え、ありませんよ、私には……」


私には誰かに誇れるものが無い。

夢だって私のものじゃない、親のものだ。

誰かに与えられなければ、自分の望みも見い出せない。

そんな私に、何があるっていうんだろう。


「あるよ」


でも君は信じられないくらいに真っ直ぐ、昼間の空をその瞳に宿しているように澄んだ瞳で私に言うのだ。

これが雅臣先輩じゃなかったら、適当な事ばっかり言わないでって怒っていたところだ。

けれど、君が言う事は心にストンッと落ちてくる。


「どうして、断言できるんですか?」

「だって清奈は、妬んだりせずに素直に相手を認める事が出来るだろう?」

「それは……自分が何もない人間だってわかってるからですよ」


羨みはしても、妬む段階に私はいない。

だって私は、妬むほどの努力をしていないのだから。

でもどんなに私が首を横に振っても、雅臣先輩は雨音にも負けない声でハッキリと言う。


「周りの人間が紫を変な目で見る中、清奈だけは何が正しくて大切なのかを見極めていた」

「そんな、大層なことしてませんって」


雅臣先輩は私を買いかぶりすぎだ。

私は空っぽな人間なのに……。

唇を噛んで、傘の取っ手を掴む手に無意識に力を込める。

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