君の未来に、僕はいない
『なんか普通だよね。マンネリ化しちゃってる気がする。上位の同じ現役生のデッサン見てみなよ、捉え方が新鮮でしょ』

普通、という評価がいつも一番傷つく。
並べても誰もあなたの絵に気付きませんよ、と言われているようで。
秀でているところも欠けているところもありません。とても普通で埋もれがち。なん度となく聞いた講評だけど、ずるをしても普通というレッテルを張られたことへのショックは、想像よりずっときつかった。
「ねぇ、お前なんで一週間前、マルスの像の写真撮ってたの?」
落ち込んでいる私に、日吉が鋭い言葉を投じた。
「知ってたの? 課題がマルスだって」
目の前が真っ白になって、なにも言葉が出てこなくなった。
私はストローを口から外して、日吉の目をじっと見つめたまま固まった。なぜか目が離せなかった。
「やめぇよ日吉ちゃん、そんなわけなかよ。課題は当日先生が気分で決めるんやから」
「まぁ、そうやけど。なんかすげぇ暗い顔してっから、なにか理由があるんかと思って」
日吉の目は、大きくて鋭くて真っ直ぐで、嘘がない。嘘をつけない。
こんなこと知られたら絶対に呆れられるし、軽蔑される。どうしよう。なんて言えばいい。でも、絶対に葵のことを言うわけにはいかない。

「私、自分の絵が愛せんのよ……」
追いつめられて出てきた言葉は、私の胸の奥の奥に閉じ込めてあった本音だった。
まさかこんな言葉が自分の口から出てくるとは思わなくて、すぐに訂正しようと次の言葉を考えたが、日吉と遠藤ちゃんが張り詰めたものを見る目で私を見ていた。
「ごめん、変なこと言った」
すぐさま気まずい空気を取り払うように謝ったが、二人の表情は変わらなかった。
そりゃあそうだ。大げさかもしれないけれど、私たちにとって自分の作品は我が子のようなものだ。
我が子を愛せないなんて言ったら、かける言葉が見つからなくて当然だ。それが正解の反応だ。
随分と間をおいて、遠藤ちゃんが『でも、私は白戸ちゃんの絵好きよ』とぽつりと呟いた。
空っぽのグラスの中で、溶けた氷がカランと音を立てた。

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