君の未来に、僕はいない
こんなに上手くいっていいのか、というほど猛スピードで二人の関係は悪い方向に進み、一か月後に離婚したと聞いた。
下田講師は、精神的にピアノを教えられる状況ではないと言って、教室をお休みにし、葵からも離れ、そして自然とこの町から消えていった。
良知先生も異動が決まり、下田講師より少し遅れたタイミングで、隣の隣町へ引っ越してしまった。
それはたった、半年間のできごとだった。

すべてが上手く行き過ぎた。
私は、彼女たちがこの町からいなくなってから、二人の人生を大きく変えてしまったことにやっと恐怖を覚えた。
葵のことを考えたら、これでよかったのだ。
そう言い聞かせたけれど、でも葵はそんなこと私に頼んでいなかった。
彼は、下田講師をこの町から追い出したいなんてこと、一言も言っていなかった。葵は共犯者ではない。私がひとりで勝手にやったことだ。
ああ、罪を追うのは私だけなのだ。そのことに気付いたとき、全身の震えが止まらなかった。

葵は、自分の能力を、人を不幸にすることに使われて、一体どんな気持ちだったのだろう。
その後葵は転校してしまったので、あの事件についてどう思っていたのか、確認することも、謝ることもできなかった。
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