君の未来に、僕はいない
「ああ、もう早く会いとうよっ」

私の言葉を丸無視して遠藤ちゃんが叫んだ瞬間、廊下から女子の黄色い声が聞こえてこた。
すぐに廊下に飛び出した遠藤ちゃんを追いかけて外に出ると、そこには今も変わらない見た目のミノル先輩がいた。
講師たちが静かに、と注意していたが、ミノル先輩を取り巻く女子はどんどん増えていく。
ミノル先輩は、どこか少し戸惑ったような様子で薄い笑顔を浮かべ、ぺこぺこと会釈をしながら作品展示室に向かった。
「なんかミノル先輩、少しやつれとったね」
遠藤ちゃんも同じことを感じたのか、そうやね、と心配そうに相槌を打った。
すると、そこに日吉がやってきて、また余計な一言を言い放った。
「おい萌音、お前は話しかけんくていいんか? 好きやったんやろ」
「えっ、白戸ちゃんそうやったん!?」
「萌音、小中高と同じ美術部だったもんな」
驚く遠藤ちゃんにすぐに「昔の話ね」と訂正を入れ、日吉の背中をバシッと叩いた。
彼はいったいどうしていつもことをややこしくすることが好きなのだろうか。
私は呆れたような口調で、日吉に自分の気持ちを告げた。
「ミノル先輩はもう遠い人やもん。才能あるし、私とは違う。手も届かんよ」
「前から気になっとうけど、萌音のその才能って言葉で壁作るんなんなん?」
日吉は怪訝な表情で、そう問いかけてきた。ここ最近日吉との間ですぐに空気がぴりついてしまうのは、受験前だからだろうか。
遠藤ちゃんは気まずそうに私たちを見つめ、なにか話題を変えようと口をパクパクさせていたが、なにも言葉が出てこないようだった。
「自分の絵好きになれないとか才能がどうのとか……二浪しても一次試験通過できなかった俺の前でよう言えるな」
日吉のその言葉に、私はなにも言い返せなくなってしまった。
そんな私の表情を見て、日吉は少し言いすぎたか、というような表情をしてから、ごめん八つ当たりとだけ呟いて去っていった。
親に「受験は今年までだぞ」、と改めてとプレッシャーかけられたらしいよ、と遠藤ちゃんがひっそりと教えてくれた。
私は自分の発言のデリカシーのなさを、素直に反省した。
自虐的な言葉は、時と場合を選ばないと、まわりのモチベーションをも下げる。

結局ミノル先輩を見ることができたのはあの一瞬で、特別講義も挨拶もないままに一日は終わってしまった。
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