君の未来に、僕はいない
彼のことを守ってあげなきゃいけないような、そんな気持ちになったのは、確かにあの時からだった。
憎いけど、憎めない。私は葵という人間が自分の中でどんな存在なのか、とてもじゃないけれどひと言では説明できない。


夜になると、葵が交番のおじさんと一緒に帰ってきた。
ばあちゃんはそれはそれは心配して、葵のことをぎゅっと抱きしめていた。葵は何も言わなかった。
私は葵の目を見ることができなくて、すぐに二階に上がってしまった。
どうしよう、なんて言葉をかけて、どう自分の思いを伝えればいいのだろう。
何も言葉が思い浮かばなくて、自分の気持ちに整理がつかなくて、私は自室で体育座りをして身を縮めた。
すぐにコンコン、というノック音がして、部屋の扉がゆっくりと開いた。
背後から私を見つめる人物の方を振り返って、私はノートに書いた文章を見せる。

『いつから気付いてた? 犯人が私だって』。

葵は、その質問に対して、最初からだよ、という意味の手話をした。
そうか、最初から気づいていたのか。私が夜な夜な自分の作品を破壊していたことについて、もうバレバレだったのか。
葵に予知されないように、一週間葵に触れずに過ごせた日の夜だけを狙って、夜中に抜け出していたのにな。
「ごめん、葵が、疑われちゃった……。葵は、私が壊した私の作品、集めに行ってくれてたんでしょう?」
丸めた画用紙を拾ってくれたあの時みたいに。
葵は私の横に座って、明日一緒に事情を説明しに行こう、と床に直接置いたノートに書いた。
美術品破壊事件の犯人が私だと知られたら、予備校の皆はどう思うだろうか。気が狂ったやつだと思うに違いない。

『自分の作品が好きじゃない』。

事件の動機をノートに書き込むと、葵はうん、とだけ頷いた。
受験が近づくにつれて、その気持ちはどんどん膨らみ、不安へと変わっていった。
なんの目的も目標もないまま受験をして、もし万が一受かったとして、一体その先に何があるのだろう。
自分の進路が全く見えなくなると、急に自分の作品がガラクタのように思えてきて、不毛なものを生み出し続けている自分が怖くなって、全てを壊したくなった。

でも、今、自分がしてしまったことの大きさを理解して、震えが止まらない。
私のせいで、葵が警察で取り調べを受けた。私がしたことによって、町はざわめき警察が動いている。
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