君の未来に、僕はいない
第三章

消えてしまった君



芸術祭は、去年の冬からスタートしたお祭りだ。
町内の芸術家や美術部の高校生が作った作品を町中に展示して、かなり型破りの奇抜な神輿を担いで歩く。
そのビジュアルの強さから、町長の狙い通りその祭りは町の名物になると報道され、もちろん今年も行うこととなった。
しかも今年は、あのハヤシミノル先輩の作品もあると聞いているから、町民はこの日を楽しみにしていた。

しかし、今年の私はもちろんそれどころではない。
学校を終え、家に着くと、彼は私を待っていてくれた。
目を合わせ静かに頷き、私達は一緒に警察に行くことを決心した。
「ばあちゃん、お祭り行ってくるけんね」
「はいよ、あったかい格好して、気を付けていってらっしゃい」
ばあちゃんにはまだ真実を伝えられなかった。私は、葵とお祭りに行くことにして、ばあちゃんに手を振ってから家を出た。
お祭りが始まる前の独特な空気が町全体を包み込んでいた。
遠くで聞こえる笛の音、少し落ち着かない様子の町の人々、神輿を担ぐ前に気合を入れているおじさん達を通り過ぎて、私と葵は交番を目指した。
葵は、いつもと変わらない様子で隣を歩いている。
こんな人の多い時間に外に出るなんて、葵はきっと嫌なはず。それでも、文句ひとつ言わずについてきてくれた。
駅の近くの小さな交番にたどり着くと、いつものあのおじさんが私に気付いて手を振った。
しかし、なんだかいつもと様子が違って見える。不思議に思いながらも中に入り、昨夜なん度も練習した言葉を口にした。
「あの、葵は犯人じゃないんです、本当は……!」
「今連絡しようと思っていたところなんだ。疑ってごめんね葵君。今真犯人が現れたけ」
「え……真犯人?」
思いもよらぬ展開に、私も葵もその場に固まってしまった。
真犯人ってどういうこと? 犯人は私なのに。そう言おうとしたけれど、おじさんはとても慌てていて話を聞いてくれそうになかった。
「ハヤシミノルじゃけっ、彼が町の作品を壊して回っているそうや。今日の芸術祭の作品も壊しちまったようで、今パニックなんや」
「え、ミノル先輩がですか……!?」
私はすぐに葵にそのことを伝えると、彼も珍しく目を見開き驚いていた。
ミノル先輩がなぜそんなことを? どうして?
それは町内の皆が抱いている疑問らしく、今彼のことを探して回っているが祭りの人込みのせいで見つからないらしい。
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