君の未来に、僕はいない
葵が実家に戻っている可能性を先に潰されてしまった私は、益々その手紙を読むことが怖くなった。
どうして実家に帰るなんて嘘をついたの……?
嘘をつかれたことに対する怒りと、今どこにいるのか分からない不安で、心臓がバクバクと脈打ちだした。
でも、葵がいまどこで何をしているかは、この手紙を読まないことには始まらない。
私は、意を決して手紙を手に取り、二枚目の便箋を開いた。

「何これ……」

しかし、その未来予想を読んだ瞬間、怒りも不安も何もかもが一瞬で吹き飛んだ。
それから、私は力なくその場に座り込み、便箋で顔を覆った。
ああ、本当に葵とはもう二度と会えないんだということを、私はその文章を読んだとき、一瞬で理解してしまった。

『一.君は自分の作品を愛せるようになるでしょう
 二. 君はもっと自分を信じられるようになるでしょう
 三.君はこれから先辛いことがあってもしぶとく乗り越えるでしょう
 四.君は幸せになるでしょう
 五.君はいつしか僕のことを忘れるでしょう 』

こんなのちっとも未来予想じゃない。こんなのただの願掛けじゃないか。
「バカみたい……何これ。信じないよ、こんなん……」
私が壊したはずの作品たちは、ぴったりと接着剤でくっつけられて、元に戻っている。
葵は、私が犯人だと知りながら、深夜にこの欠片を拾い集めて、何時間もかけて元に戻したのだろうか。
バカだな。呆れて文句も言えないよ。唐突すぎて涙すら出てこない。

五つの未来予想の下には、ひと言だけ文が添えられていた。

『真っ先に手話を覚えてくれて、嬉しかった。ありがとう』。

ありがとう、の文字だけ、僅かにボールペンのインクが滲んでいることに気付いて、もしかしたら葵が涙を落したのかもしれないと思った。
その文字を指で優しくなぞって、私は外の景色を見つめた。
いつのまにか、小さな粉雪がしんしんと舞い降りていた。
一階で、ばあちゃんが『洗濯物あお君と一緒に取り込んでー』と声を上げていた。
私は、涙を拭ってはーいとだけ返事をして、このことをどうやってばあちゃんに説明しようか考えあぐねていた。

葵と洗濯物取り込んだり、畑で遊んだり、布団を叩いたり、もっとしておけばよかったな。
一週間前に予知したこと、逃げずにちゃんと信じておけばよかった。
もう今更な後悔だけが頭をよぎって、拭ったはずの涙をなん度も押し出す。
< 50 / 89 >

この作品をシェア

pagetop