君の未来に、僕はいない
すると、裕子がまさかの食いつきを見せて、私からスマートフォンを奪い取った。
周りは、裕子はイケメン好きだからなあ、と冷やかしたが、彼女はちょっと静かにして、と言って、今度は自分のスマホを操作し始めた。
一体何があったんだ? という思いで裕子の行動を見つめていると、彼女は突然私にスマホの画面を見せつけた。
「ねぇ、この嘉音(カノン)って人に超似てない? 」
近づけられた画面には、謎に包まれた若き作曲家、という煽り文の雑誌の写メだった。
そこには、譜面に囲まれて映っている、葵に酷似した人の姿があった。
でも、その写真もはっきりと顔が写っているわけじゃない。だけど、横顔が葵にそっくりだった。
「妹が音楽科でさ、こういう雑誌好きで結構買ってるの。この人イケメンじゃない? って、つい最近写メが送られてきて。私も気になって調べたんだけど、検索には何も引っかからなかった」
もしかしたら……。そんな可能性が頭を過った。
これがもし葵なら、葵は生きているということだ。
私は、裕子のスマホの画面を食いいるように見つめた。見れば見るほど葵に似ている気がしてきて、変な期待をしてはいけないと分かりつつも、心臓は音をはやめた。

「ごめん裕子、この写真私にも送ってくれるかな……」

正体不明の作曲家、嘉音の情報は、一切ネット上には掲載されていなかった。
自室に戻ってすぐに調べたけれど、出身地はおろか活動場所、本名、年齢、性別、何ひとつ公開されていなかった。
あの雑誌に写真の掲載の許可が下りたのは、相当な奇跡だったのだろうと分かる。
出版社にも問い合わせたけれど、プライバシーの保護のためそういった情報は一切お伝えしておりません、と返されてしまった。
唯一得た情報は、雑誌に載っていた彼の活動履歴だけだった。嘉音という名前が知られるようになったのは、今からたった半年前のことだ。
ゲームの挿入歌から始まり、CMソング、楽曲提供など……この短期間で信じられないスピードで曲を作る人がいる。そんな噂が飛び交い始め、元を辿ると嘉音に行きついた。
雑誌にはそんなわずかな情報しか載っておらず、私は頭を抱えた。

葵に会いたい。
なんとか閉じ込めていた思いが、また爆発してしまった。
葵に会いたい。一目でもいい。なにも言葉を伝えられなくても、いいから。
出ていった理由も、なにも聞かないから。だからお願い。
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