君の未来に、僕はいない
私は自転車を近くの駐輪場に止めて、木製の重たいドアを開けて赤茶色の屋根のカフェに入った。
中に入ると、すぐにマスターが笑顔を見せていらっしゃいませ、と言ってくれたので、安心した。
入口付近のガラスはステンドグラスで、席数はカウンターに三席、テーブル二席。天井ではファンライトがくるくると回っている。
照明はほとんどついていなくて、ステンドグラスから漏れる光が店内に優しく降り注いでいた。
お客は私ひとりで、一番奥のテーブル席に案内され座った。椅子は黒い革張りの重たそうな椅子で、座ると想像以上に柔らかく、私は尻もちをついたように座った。
「アイスコーヒーで」
注文をすると、マスターはまた優しく微笑んで、お辞儀をした。
真っ白な髭を生やしているが、ネイビーのニット帽と黒縁眼鏡がよく似合っている。
とても雰囲気のいい店だな、と、私はすぐにこの部屋が生み出す空気に馴染んだ。
「嘉音って、知ってますか?」
お店に置いてあった雑誌を読んでいると、突然マスターが話しかけてくれた。
「カノン、知ってますよ。大好きなんですあの曲」
「ああ、違う違う。曲名じゃなくて、名前なんだ」
マスターは、アイスコーヒーを私の机に置きながら、柔らかく笑った。
結露が起き水滴のついた銅製のカップに入ったアイスコーヒーは、キンキンに冷えていることが見ただけで分かった。
「嘉永の嘉に音で、カノンって読むんだけど、最近謎の作曲家として話題だったんだよね」
「え……、その人のこと知っとるんですか!?」
驚いた私は、カウンターに戻ろうとしたマスターの腕を思わず引いてしまった。
「あ、つい、ごめんなさい……私も今ハマってて」
しかし、私はすぐに腕を話して、すみませんと呟き座った。
落ち着け。ここで変なファンだと思われたら、情報をもらえなくなってしまう。
なにか事情があることを把握したのか、マスターはなにも言わずにCDをセットした。すると、店内にカノンが流れ始めた。
「……さっきまでかけてたんだ。私もこの曲が大好きでね。嘉音が弾くカノンは、人の心を揺さぶる何かがあるよね」
そうか、さっき空耳だと思ったのは、このCDだったんだ。
一度気持ちを落ち着けるために、マスターの淹れたアイスコーヒーを飲んだ。
程よい苦みで、すっきりしていて、優しい甘みがある。銅のカップから伝わる冷たさが心地よい。
中に入ると、すぐにマスターが笑顔を見せていらっしゃいませ、と言ってくれたので、安心した。
入口付近のガラスはステンドグラスで、席数はカウンターに三席、テーブル二席。天井ではファンライトがくるくると回っている。
照明はほとんどついていなくて、ステンドグラスから漏れる光が店内に優しく降り注いでいた。
お客は私ひとりで、一番奥のテーブル席に案内され座った。椅子は黒い革張りの重たそうな椅子で、座ると想像以上に柔らかく、私は尻もちをついたように座った。
「アイスコーヒーで」
注文をすると、マスターはまた優しく微笑んで、お辞儀をした。
真っ白な髭を生やしているが、ネイビーのニット帽と黒縁眼鏡がよく似合っている。
とても雰囲気のいい店だな、と、私はすぐにこの部屋が生み出す空気に馴染んだ。
「嘉音って、知ってますか?」
お店に置いてあった雑誌を読んでいると、突然マスターが話しかけてくれた。
「カノン、知ってますよ。大好きなんですあの曲」
「ああ、違う違う。曲名じゃなくて、名前なんだ」
マスターは、アイスコーヒーを私の机に置きながら、柔らかく笑った。
結露が起き水滴のついた銅製のカップに入ったアイスコーヒーは、キンキンに冷えていることが見ただけで分かった。
「嘉永の嘉に音で、カノンって読むんだけど、最近謎の作曲家として話題だったんだよね」
「え……、その人のこと知っとるんですか!?」
驚いた私は、カウンターに戻ろうとしたマスターの腕を思わず引いてしまった。
「あ、つい、ごめんなさい……私も今ハマってて」
しかし、私はすぐに腕を話して、すみませんと呟き座った。
落ち着け。ここで変なファンだと思われたら、情報をもらえなくなってしまう。
なにか事情があることを把握したのか、マスターはなにも言わずにCDをセットした。すると、店内にカノンが流れ始めた。
「……さっきまでかけてたんだ。私もこの曲が大好きでね。嘉音が弾くカノンは、人の心を揺さぶる何かがあるよね」
そうか、さっき空耳だと思ったのは、このCDだったんだ。
一度気持ちを落ち着けるために、マスターの淹れたアイスコーヒーを飲んだ。
程よい苦みで、すっきりしていて、優しい甘みがある。銅のカップから伝わる冷たさが心地よい。