イジワル部長と仮りそめ恋人契約
私のためじゃなくて仕事のためっていうあたり、仮にも女としてはほんの少し、悲しい気もする。

それでも空木さんの申し出は、どうお見合いを回避しようか困りきっていた私にとって願ってもないことだ。


……とはいえ、今回のこれは、さすがにハードル高いんじゃないですか?



「あの、何かいい作戦が……?」

「それはまたおいおい考える。でもまあとりあえず、あんたのじーさんに会うまでの1ヶ月は、当日誰が見ても疑いようのない本物の恋人らしく振る舞うための練習期間にするぞ」

「はい?!」



予想外のセリフが彼の口から飛び出したので、つい素っ頓狂な声を上げてしまう。

眉間にシワを寄せ、今日何度目かわからない呆れ顔をされた。



「言っとくけど、これはあんたのための練習期間だからな? 今日は俺のおかげでなんとか切り抜けたが、ぎこちない、目ぇ合わせない、うまく話すこともできないんじゃ、1ヶ月後間違いなく俺たちが本当の恋人同士じゃないと見抜かれるぞ」

「うっ……」

「だから、当日まではなるべく本物の恋人らしく過ごす。その間に慣れて、少しでも違和感をなくすよう努めろ」



冷ややかな眼差しとともにピシャリとそんなことを言われてしまえば、私はもううなずくことしかできない。

でも恋人らしくって、具体的にどんなことをすればいいのだろう。

生まれてこの方一度も彼氏がいたことのない私としては、まったく想像がつかない。

そんな疑問が顔に出てしまっていたのか、空木さんが淡々と話す。



「無難なところで、休みの日はデートするとか。それでなくても平日の仕事終わりに食事に行くとか」

「デート……」



彼の言葉を反芻し、ほんのり頬が熱くなる。

すると空木さんは、なんだか白けた表情をして。
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