イジワル部長と仮りそめ恋人契約
2.定番デートをしましょう
「そーだ志桜さん! 明後日って何か予定ありますか~?」
定時の18時を少し過ぎた、日中より緩い空気が流れるオフィス。
ひとつデスクを挟んだ右隣からキャスターを転がしてわざわざ椅子ごと近づいて来たのは、ふんわりパーマのショートカットがかわいい2歳年下の後輩である真子(まこ)ちゃんだ。
彼女の言葉に、私はギクリとキーボードを打つ手を止めた。
「え……明後日? って、日曜日?」
「はい! 実は明後日1日いっぱい使って秋の新作スイーツ満喫ツアーやろうかって美波(みなみ)さんと話してたんですけど、志桜さんもどうかなーって」
美波さんというのは、私のひとつ上の先輩のこと。ちなみに彼女は定時になるなり意気揚々と「じゃ、おっさきー!」なんて言ってさっさと退社したので、今この場に姿はない。
私と美波さん、そして真子ちゃんは、この株式会社ジェリービーンズの広報課の中で、プライベートでも会うくらい比較的仲の良いメンバーだ。
……でも、明後日は。
「ごめんね真子ちゃん、日曜日はちょっと用事が……」
「え~そうなんですか? 残念ですー」
本当に残念そうにしょんぼり肩を落とす彼女に、もう1度「ごめんね」と重ねる。
会話はここで終了すると思ったのに、なぜか真子ちゃんが今日に限って予想外のセリフを放った。
「あ、もしかして志桜さん、実は彼氏とデートとかですか?」
「えっ」
思わぬ質問に、つい過剰なほどビクついてしまう。
この反応を見た真子ちゃんの目が、キラリと光った気がした。
「え、ほんとに? 志桜さん、いつの間に彼氏できたんですか?」
「や、あの、そういうんじゃなくて……」
「あれ? 火曜日に駅前のカフェで一緒にいた男の人たちって、どっちかが一之瀬さんの彼氏じゃないの?」