イジワル部長と仮りそめ恋人契約


◇ ◇ ◇


電車に揺られながら、ソワソワと落ちつかない気持ちで窓の外を眺める。

ちょうど、電車が駅へと到着した。けれど私が降りるのは、次の駅。

空木さん──悠悟さんとの、待ち合わせ場所だ。


私と彼が期間限定の恋人契約を交わしたのが、火曜日。その後悠悟さんとメッセージアプリでいくつかやり取りをして、『とりあえず、今週の日曜日に1回目のデートをしよう』ということになった。

そして今日が、その日曜日。デートなんて生まれて初めてな私は、朝からずっと緊張しっぱなしだ。


……この格好、変じゃなかったかな。

ゆうべ散々悩んだあげくなんとか決めたコーディネートを、ちらりと見下ろす。

袖がフリルになっている、胸元から下に黒のボーダーが入った白いトップス。

ボトムはちょうど膝が見える丈のふわっとしたネイビーのスカートで、ピンクベージュのあまりヒールが高くないパンプスを履いてきた。

今日どこへ行くのかは悠悟さんが決めてくれて、結局私その行き先を教えてもらえていないんだよね。

そんなわけで『極端に歩くわけでもまったく歩かないわけでもないから、まあそんな感じの格好で』というかなりざっくりしたヒントを元に、今日の服は決めざるを得なかったのだ。


そうこうしているうち、目的の駅に電車が到着する。

不可抗力で速まる鼓動を抑えるように片手を胸に添えながら、改札を通過した。

そして私は、待ち合わせの目印にしていた駅前広場のオブジェに寄りかかる人物を見つける。


うわ……うわぁ、どうしよう。本当に悠悟さんがいる。

数日前、初めて会話をしたばかりの彼。それでも、整ったあの顔を見間違えるはずがない。

デニム地の七分袖シャツに細身のベージュパンツを合わせた悠悟さんは、両手を組んでぼんやり人通りを眺めていた。

私は意を決して、肩にかかるショルダーバッグの紐を握りしめる。



「あ……あのっ、悠悟さん!」



名前を呼びながら、小走りで駆け寄った。

気づいた悠悟さんがオブジェに預けていた背中を起こし、私と向き合う。
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