イジワル部長と仮りそめ恋人契約
「あのー……今日って、どこへ行く予定なんですか?」
なんだかんだ当日まではぐらされてきたけど、さすがにもう、教えてくれてもいいよね?
私が訊ねると、歩くスピードを落として左隣に並んだ悠悟さんがこちらを見下ろし、にっと口角を上げる。
「今日は最初だから、デート初心者のあんたに合わせた定番コース。水族館な」
「わ! 水族館ですかー!」
彼の口から飛び出したセリフがうれしくて、思わずぱあっと表情を明るくした。
私の反応を見た悠悟さんは、ちょっとだけ驚いた顔をする。
「そんなによろこばれるとは思わなかった。好きなんだ? 水族館」
「はい、好きです! っていっても、ここ何年かは機会がなくて全然行ったことなかったですけど……だから余計にうれしくて、楽しみです」
「……ふーん。そう」
素っ気なく言って、彼は再び前を向く。
私はこれから行くという水族館が楽しみで、顔をニコニコさせたままだ。
最近の水族館はすごく凝った展示方法をしているとか聞くし、ずっと行ってみたかったんだ。
でも案外、女友達と話してても「今度水族館行こうかー」なんて話題にならない。……なんとなくあそこは、家族連れかカップルの聖域のように思えるんだよね……ものすごい偏見だけど。
「……ちなみに」
話し始めた悠悟さんにつられるように、顔を向けた。
意地悪に笑う彼がいつの間にか私のことを見下ろしていて、ドキッとしてしまう。
「一応俺車持ってるけど、今日はあえて電車使うように駅で待ち合わせにしたの、なんでだと思う?」
「え? えと、わ、わかんないです」
少し考えてもわからなくて、正直に白旗を上げた。
あえて、車を使わなかった理由? あっもしかして、水族館の駐車場が混んでるからだったり?!
後から思いついた理由を私が口にするより先に、にっこりさわやか笑顔の悠悟さんが答えた。
「正解は、せっかくだからデートも未経験などこぞのお嬢さんに『ごめん待った?』『ううん今来たところ』的な擬似リア充体験させてやろうと思った俺の優しさです」
「それはどうもお気遣いありがとうございます……」
馬鹿にされてる。すっごい馬鹿にされてる。
ツンと前を向いて思わず頬をふくらませていると、斜め上から「ぷっ」と噴き出す声がした。
わざわざ横を見なくたって、悠悟さんが肩を震わせて笑いを堪えていることは感じ取れる。なんだか無性に恥ずかしくて、ますます私は頑なに前だけを見て歩くのだった。
なんだかんだ当日まではぐらされてきたけど、さすがにもう、教えてくれてもいいよね?
私が訊ねると、歩くスピードを落として左隣に並んだ悠悟さんがこちらを見下ろし、にっと口角を上げる。
「今日は最初だから、デート初心者のあんたに合わせた定番コース。水族館な」
「わ! 水族館ですかー!」
彼の口から飛び出したセリフがうれしくて、思わずぱあっと表情を明るくした。
私の反応を見た悠悟さんは、ちょっとだけ驚いた顔をする。
「そんなによろこばれるとは思わなかった。好きなんだ? 水族館」
「はい、好きです! っていっても、ここ何年かは機会がなくて全然行ったことなかったですけど……だから余計にうれしくて、楽しみです」
「……ふーん。そう」
素っ気なく言って、彼は再び前を向く。
私はこれから行くという水族館が楽しみで、顔をニコニコさせたままだ。
最近の水族館はすごく凝った展示方法をしているとか聞くし、ずっと行ってみたかったんだ。
でも案外、女友達と話してても「今度水族館行こうかー」なんて話題にならない。……なんとなくあそこは、家族連れかカップルの聖域のように思えるんだよね……ものすごい偏見だけど。
「……ちなみに」
話し始めた悠悟さんにつられるように、顔を向けた。
意地悪に笑う彼がいつの間にか私のことを見下ろしていて、ドキッとしてしまう。
「一応俺車持ってるけど、今日はあえて電車使うように駅で待ち合わせにしたの、なんでだと思う?」
「え? えと、わ、わかんないです」
少し考えてもわからなくて、正直に白旗を上げた。
あえて、車を使わなかった理由? あっもしかして、水族館の駐車場が混んでるからだったり?!
後から思いついた理由を私が口にするより先に、にっこりさわやか笑顔の悠悟さんが答えた。
「正解は、せっかくだからデートも未経験などこぞのお嬢さんに『ごめん待った?』『ううん今来たところ』的な擬似リア充体験させてやろうと思った俺の優しさです」
「それはどうもお気遣いありがとうございます……」
馬鹿にされてる。すっごい馬鹿にされてる。
ツンと前を向いて思わず頬をふくらませていると、斜め上から「ぷっ」と噴き出す声がした。
わざわざ横を見なくたって、悠悟さんが肩を震わせて笑いを堪えていることは感じ取れる。なんだか無性に恥ずかしくて、ますます私は頑なに前だけを見て歩くのだった。