イジワル部長と仮りそめ恋人契約
頭上からは、堪えきれていない忍び笑い。
私はぐるんと後ろを振り向いた。
「ちょっ悠悟さん、ひど──」
睨みつけながら言おうとしていた文句が、不覚にも途切れる。
だって想像以上に、悠悟さんの綺麗なお顔が近い。しかもなんか、柔軟剤みたいないい匂いもするような気がする。
彼自身、突然私がフリーズした理由には気づいたらしい。
真っ赤な顔で固まる私を見下ろして、なんだかバツの悪そうな表情をした。
「……いちいち照れんなよ、これくらいで」
苦々しく言ったかと思えば、びしっと頭のてっぺんにチョップを落とされる。
おまけに私から視線を逸らしつつ「あーもうほんと面倒くせぇ」とまでつぶやかれた。何それひどい。
「優しくない……! 彼氏なのに、全然優しくない……!」
次のエリアに歩き出した悠悟さんの後をついて行きながら、つい恨み言をもらす私。
だって、偽物とはいえ、この1ヶ月間は私たち恋人同士なんでしょ? それとも、世の中のカップルはみんなこんな感じなの? 世知辛すぎない??
小さくとも、悠悟さんに私の声は聞こえていたらしい。こちらを振り返ることもなくハッと鼻で笑う。
「うるさいな。俺に優しく扱ってもらいたいなら、精々そのない色気振り絞って誘惑のひとつでもしてみろよ」
「ゆうわく??!!」
あまりにも自分とは縁遠いその単語に、思わず過剰なほど反応してしまった。
誘惑……いや、しかも『ない色気振り絞って』って。
自分に色気がないことなんて、ちゃんとわかってますよ。ほんとこの人、外面はいいのにドS……。
そもそも色気って、どうやって意図的に出せるんでしょう。ちらりと視線を落としてみると、そこにあるのは我ながら凹凸に乏しいと自覚している、見通しのいい胸元。
「……悠悟さん」
「ん?」
「胸って、豆乳飲むと大きくなるんでしたっけ」
ぼそりと言った瞬間、何も食べたり飲んだりしていないはずの悠悟さんが盛大にむせた。
立ち止まってげほげほと咳き込むその背中を、慌ててさする。
私はぐるんと後ろを振り向いた。
「ちょっ悠悟さん、ひど──」
睨みつけながら言おうとしていた文句が、不覚にも途切れる。
だって想像以上に、悠悟さんの綺麗なお顔が近い。しかもなんか、柔軟剤みたいないい匂いもするような気がする。
彼自身、突然私がフリーズした理由には気づいたらしい。
真っ赤な顔で固まる私を見下ろして、なんだかバツの悪そうな表情をした。
「……いちいち照れんなよ、これくらいで」
苦々しく言ったかと思えば、びしっと頭のてっぺんにチョップを落とされる。
おまけに私から視線を逸らしつつ「あーもうほんと面倒くせぇ」とまでつぶやかれた。何それひどい。
「優しくない……! 彼氏なのに、全然優しくない……!」
次のエリアに歩き出した悠悟さんの後をついて行きながら、つい恨み言をもらす私。
だって、偽物とはいえ、この1ヶ月間は私たち恋人同士なんでしょ? それとも、世の中のカップルはみんなこんな感じなの? 世知辛すぎない??
小さくとも、悠悟さんに私の声は聞こえていたらしい。こちらを振り返ることもなくハッと鼻で笑う。
「うるさいな。俺に優しく扱ってもらいたいなら、精々そのない色気振り絞って誘惑のひとつでもしてみろよ」
「ゆうわく??!!」
あまりにも自分とは縁遠いその単語に、思わず過剰なほど反応してしまった。
誘惑……いや、しかも『ない色気振り絞って』って。
自分に色気がないことなんて、ちゃんとわかってますよ。ほんとこの人、外面はいいのにドS……。
そもそも色気って、どうやって意図的に出せるんでしょう。ちらりと視線を落としてみると、そこにあるのは我ながら凹凸に乏しいと自覚している、見通しのいい胸元。
「……悠悟さん」
「ん?」
「胸って、豆乳飲むと大きくなるんでしたっけ」
ぼそりと言った瞬間、何も食べたり飲んだりしていないはずの悠悟さんが盛大にむせた。
立ち止まってげほげほと咳き込むその背中を、慌ててさする。