イジワル部長と仮りそめ恋人契約
魚の群れが泳ぐ大きな水槽、照明の演出が凝っているクラゲのトンネル、ちょっと変な顔の深海魚コーナー。

それらを満喫した私たちは、時間をみて屋外にあるイルカのショーステージへとやって来た。

晴天の下、わくわくしながら青いベンチへと腰かける。しばらくして始まったショーは期待以上に見応えがあり、かわいらしく力強いイルカ3頭が飼育員さんの合図でジャンプをしたり変わった泳ぎ方をしたり、大人も十分楽しませてくれた。



「わっ、すごい! あんなに高いボールにも届くんだ……! 悠悟さん今の見ました? 見ました?!」

「見てたよ。隣にいるんだから同じもの見てんだろ」



興奮した私が右隣に座る悠悟さんの袖を引いて話しかけると、呆れたようにそう言われてしまった。

けど彼もショーを見ながらときどき小さく「おー」とか感心した声を上げているし、一応楽しんではいるみたい。

悠悟さんが『初心者向けの定番コース』と言ったこの水族館デートを、私はまんまと満喫しているわけだけど……。

でも、よかった。私ばっかりが、楽しいわけじゃないんだ。

それがわかると、余計にうれしくなる。私は始終浮ついた気分で、イルカのショーを堪能した。



「暑いな。この後、中のレストランで飲み物でも頼んで休憩するか?」



ショーが終わって周りの人だかりが続々と館内へと戻って行く中、同じくベンチを立ち上がった悠悟さんがうんざりした表情でそう言った。

たしかに暑いし、喉も渇いたから彼の案には大賛成だ。「そうですねー」とうなずいた私に、悠悟さんは鋭い一瞥付きで念押しする。



「人多いけど、くれぐれもはぐれるなよ?」

「わ、わかってます!」



どう考えても子ども扱いなそのセリフ。思わず拗ねたように答えれば、一瞬胡散臭そ~な眼差しを私に向けた後悠悟さんはさっさと歩き出した。

なんなの。あの人の中で、私の年齢設定は一体どうなっているんだろうか。

たしか最初話したとき、私自分の歳教えたよね? 一応社会人だって、わかってるよね??

けどまあ、悠悟さんが興味あるのは私じゃなくてお兄ちゃんの方みたいだから、もし忘れられてたとしても仕方ないか。……ってコレ、改めて考えると女として悲しすぎるな。
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