イジワル部長と仮りそめ恋人契約
……なんで私、この人たちに話しかけられたんだろう。



「えっと……?」

「お、やっぱりかわいい。きみ、ひとりで来たんじゃないよね? 連れいる?」

「はあ……そうですね、あの、ちょうど今はぐれちゃったところなんですけど」



なんだか馴れ馴れしいな、とは思うのだけど、相手は笑顔だし悪い人でもなさそうなので一応正直に言葉を返す。

私の答えを聞いて、男性ふたりはなぜか意味ありげに目配せをした。



「そっかー。その連れって、女友達かな? あ、もしかして彼氏だったり?」



相変わらずニコニコ顔のふたり。それを見上げながら、ちょっとだけ考える。

私と悠悟さんは、1ヶ月だけの期間限定の恋人。

あくまで、期間限定。本物の、彼氏彼女じゃない。

……本物じゃ、ないんだよね。


少しうつむきがちに、私は答える。



「あの……彼氏では、ないです」

「そうなの? じゃあさー、きみとそのコと俺らでもしよかったら」

「──志桜!」



突然割り込んできた声に、ハッとして顔を上げた。

見ると人波を縫うようにして、こちらへ近づいてくるひとりの人物。

目の前まで来たその人──悠悟さんを、私は呆然と見上げた。



「あ……悠悟、さん」



びっくりした。だってずっと『あんた』呼ばわりばかりで、なんだかすごく久しぶりに名前を呼ばれた気がする。

少し息を切らしている悠悟さんは、怒っているような呆れているような悔しがっているような、なんとも言えない表情で私のことを見下ろしていて。

けれども不意に、私を囲っていた男性ふたりをギロリと鋭く睨みつける。



「あんたら、俺の彼女に何か用か?」

「あ、いやそんな、俺たちは別に」

「えーっと、もう行きますんで!」



ドスのきいた悠悟さんの声音に恐れをなしたのか、ふたり組はそそくさといなくなってしまった。

その後ろ姿を見送ることもなく、私はただひたすらぽかんと悠悟さんを見つめる。

……だって。

今悠悟さん、私のこと『彼女』って。
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