イジワル部長と仮りそめ恋人契約
なんとなく負けた気になって、むうっとくちびるを尖らせる。

そんな私の様子を可笑しそうに眺めていた悠悟さんが、ふと、何か思案するように視線を夜空に向けた。



「そうだな。まあ今のところ、一緒にいて不愉快な思いもさせられてないし?」

「へ、はい?」

「キスくらいなら、場合によってはサービスでしてやってもいい」



言いながら、あろうことか私の顎をすくい上げ親指で下くちびるをなぞる悠悟さん。

意地悪な笑みを浮かべる彼とまともに視線が絡み、一気に頬が熱くなった。

思いっきり動揺しつつ、慌ててその手を振り払う。



「けっ、結構です! 『キスくらい』とか言っちゃう軽い人には、してもらいたくありませんから!」

「なんだ。かわいくおねだりできたら、特別にエロくてすっげぇやつしてやろうかと思ったのに」



とんでもないことを言いながら、やはり彼はニヤリと笑う。

なんてこと! なんてことを……!

返す言葉も見つからず、真っ赤な顔でわなわなと握りこぶしを震わせる私。

あくまで余裕たっぷりな流し目で、悠悟さんがトドメのセリフを言い放った。



「ま、やめといた方が無難か。そのキスしたらおまえ俺のこと、すきになっちゃうかもしれないし?」

「~~ッか、帰りましょう!」



言うが早いか回れ右をして、私は簡素な駐車場に向かって歩き出す。

その後ろを、笑いを堪えながら悠悟さんがついてくるのがわかったから。余計に羞恥心でいっぱいになってしまった私は、ただひたすらついさっき彼が触れた下くちびるを噛みしめるのだった。
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