イジワル部長と仮りそめ恋人契約
4.仕上げは彼女のご要望
とある土曜日、時刻は16時過ぎ。キッチンで冷蔵庫の中身の最終チェックをしていると、部屋の中にインターホンの音が鳴り響いた。
ついさっきエントランスのインターホンを通して会話したばかりだったから、今度はわざわざカメラの映像を見ることはしない。私は足早に、直接玄関へと向かった。
「悠悟さん、いらっしゃい」
「どーも」
笑顔の私に答える彼は、なぜか不機嫌そう。……んん? なぜに?
「あんたなあ。さっき下のオートロックで話したからって、カメラも確認せずにそんな簡単にドア開けるなよ。不用心だな」
うっ。来て早々呆れ顔で怒られてしまった。
今にもため息をつきそうな彼に、なんとかこの空気を変えるべく手のひらで室内を示しながらにっこり笑顔を向ける。
「とっ、とりあえず! 中へどうぞ!」
「……お邪魔します」
若干まだ何か言いたげではあったけれど、悠悟さんは素直に靴を脱いで家へと上がった。
そういえば、この部屋にお兄ちゃん以外の男の人が来るのって初めてだ。今さらながら気づいてしまい、ドキドキする。
先週の水曜日。仕事終わりに一緒に食事をした際に、悠悟さんは『次のデートは、志桜の行きたいところにしよう』と言ってくれた。
そこで私が考えたのは、今まで彼がさりげなくデート代を払ってくれていたことに少しでも恩返しをしたいということ。
それで自分の数少ない特技である料理を、自宅で振る舞おうと思ったのだ。
だから今日のデートの場所は、私の自宅であるマンション。
先週末は会えなかったから、悠悟さんと会うのは1週間以上ぶりになる。
ちなみにあのとき行ったのだって、私が前々から気になっていた海鮮料理のお店だった。そして次のデートも私に委ねてくれるなんて、最初と比べたら彼がなんだか歩み寄ってくれているようでとてもうれしく思ったものだ。