イジワル部長と仮りそめ恋人契約
「えーっとそれじゃあ、悠悟さんはソファーとかで適当に寛いでてくださいね。だいたい下ごしらえは済んでるので、1時間くらいでできると思います。あ、テレビもつけていいので!」

「わかった」



悠悟さんがうなずくのを確認し、私はキッチンへと向かう。

えっとまずは、悠悟さんリクエストのアレから取りかかろうかな。とりあえずは、後はオーブンに入れるだけの状態まで準備しておいて──……。

なんてことを考えながらダイニングに背を向けてエプロンをつけようとしていた私は、突然自分のすぐ真後ろに感じた気配にビクっと肩を揺らした。



「忘れてた。これ、おみやげ」

「え、あ……ありがとう、ございます」



勢いよく振り返った先にいたのは、当然ながら悠悟さんで。

心臓をバクバクさせている私の心情なんてつゆ知らず、彼は涼しい顔で持っていたビニール袋を差し出してきた。

も、もう、びっくりさせないで欲しい……。

心の中でそうは思いつつ、ありがたくもビニール袋を受け取る。



「ワインと……シャンパンですか?」

「たいした値段のものでもないけどな。結構美味くて飲みやすいから、それ」



袋の中を覗いてつぶやくと、悠悟さんがさらりと答えた。

飲みやすい……私があんまりお酒強くないって言ったの、覚えていてくれたのかな。だとしたら、うれしい。

お酒がおみやげということは、悠悟さんは今日車じゃなくて電車でここに来たのだろうか。



「ありがとうございます! これは、ごはんのときまで冷やしておきますね」



笑顔でそう言って、私はとりあえずエプロンをカウンターに置き、冷蔵庫の前に移動した。

袋ごと中にお酒を入れ、再度ドアを閉める。閉めたその体勢のまま、おそるおそる口を開いた。
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