イジワル部長と仮りそめ恋人契約
「えっと、悠悟さん……?」

「ん?」

「あの、なんでそんなに……えーっと、近いんですか?」



そう。悠悟さんからビニール袋を受け取って冷蔵庫の中に入れる一連の流れの間、なぜか彼はずっと私のすぐ後ろにくっついているのだ。

今だって、そう。ともすれば、彼の吐息が私のつむじにかかってしまいそうなほどに距離が近い。

緊張で固まる私を余所に、ふっと悠悟さんが笑みをこぼす気配がした。



「……この服、」

「え?」

「なんで今日、これ着たんだ?」



『この服』。つまりそれは、私が今着ている水色の半袖オフショルブラウスのことだろう。ちなみに下は、スキニーデニムを合わせている。

太めのストラップ部分を指先に引っかけるようにしながらささやかれ、またもやビクンと身体を揺らした。



「な、なんでって……あの」

「もしかしてこないだ俺が、“ああ”言ったから?」



笑いを含んだ声で、悠悟さんが言う。私はカッと頬を熱くした。

先日、仕事終わりに食事をしたとき。テーブルの横を通りがかったOL風の美人な女性を見た彼は、何気ない調子で「オフショルって清楚とエロさが共存しててたいへん好ましいと思う」とのたまったのだ。

あのセリフを覚えていて、私が意図的に選んだって……完全に確信したうえでの、この言動。

やっぱりこのヒト、真性のドSだ……!



「あのとき志桜、『オヤジくさいです』なんて言ってたくせに。しっかり意識してたんだ?」

「そ……っべ、別に、意味なんてないですよ。ただの、気分です」

「ふぅん」



あくまで私はしらばっくれるけれど、こんなので誤魔化される彼ではないこともちゃんとわかっている。

返事が、完全に含み笑いだし。そしてそんな悠悟さんは、グレーのVネックカットソーにジーンズという今までで1番ラフな格好をしていた。

こんなにシンプルな服装なのに、まったく手抜きには見えない。顔がいいと、それだけで何を着ても様になるものである。
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