イジワル部長と仮りそめ恋人契約
悠悟さんはソファーを背にした席。私はその向かい側。最後にごはんをよそったお茶碗を置いて、準備は整った。

冷蔵庫から出したばかりのシャンパンを、彼の前にあるグラスへと注ぐ。



「くく、この……っこの普通のコップ使って飲むっていうのが、ガキの頃クリスマスに飲んでたシャンメリーみたいでまた……っ」

「文句言わないでください……! ウチにシャンパングラスとかワイングラスとか、そんなお洒落で気の利いたものないですもん!」



口もとにこぶしをあてて笑いを堪える悠悟さんに、照れ隠しの拗ねた口調で噛みついた。

普段から家でお酒を飲む習慣がある人なら置いているのかもしれないけど、私、めったに家でお酒なんて飲まないんだもの!

自分のグラスにもシャンパンを近づけると、それを制してわざわざ悠悟さんが注いでくれた。

ただのグラスだと、ほんとにアルコールじゃなくてジュースみたい。しゅわしゅわでうっすらピンク色の液体が入ったそれを、カチンとふたりで合わせる。



「じゃ、いただきます」

「はい。どうぞ、召し上がれ」



やはりというか、シャンパンをひとくち飲んだ後悠悟さんが最初に手を伸ばしたのはリクエストでもあったグラタンだ。

私はグラスを握りしめたまま、彼がグラタンをスプーンですくって口もとに運ぶまでの一連の様子をじっと見守る。

何度か息を吹きかけ、パクリとスプーンを口に入れた。

ゆっくり咀嚼する悠悟さんが、グラタンを飲み込むと同時に私に笑顔を向けてくれる。



「うん、美味い。やるな志桜」

「よ……っよかった、です」



無意識に呼吸を止めていたらしい私は、彼の言葉に思いきり息を吐いて脱力してしまった。

そんな私の様子を見て、悠悟さんが意地悪く笑う。
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