イジワル部長と仮りそめ恋人契約
「なんだよ。料理が得意だから今日ここに俺を呼んだんじゃなかったのか?」

「いやまあ、そうですけど……やっぱり、人それぞれ好みの味ってありますし。はーでも、とりあえずグラタンが悠悟さんの口に合ってよかった」



緊張を解いた私は、そこでようやく手元のシャンパンをひとくち飲んでみた。

そのおいしさに、目をまたたかせる。



「あ、これ、ほんとに飲みやすくておいしい……甘すぎなくて、食事に合いますね」

「だろ? じゃーほら、安心したならおまえも食えよ。ひとりでこの量はさすがに無理だ」

「あはは、はい。では、いただきまーす」



両手を合わせて言ってから、まずはしじみのお味噌汁を手に取った。

うん、我ながらおいしい。だしから丁寧に作ると、それだけでお味噌汁はおいしくなるよね。



「うん、なんというか、すごく節操がないラインナップではあるけど……それでも見事に全部俺が好きな料理ピンポイントで当ててるのも、おまえすげーわ」



料理を口に運ぶ手を止めず、半ば感心したように悠悟さんが言う。

そのセリフがうれしくて、顔を明るくさせた。



「ほんとですか? それなら、余計よかったです」



ふにゃりと破顔した私を見た彼が、つられた様子でふっと口もとを緩める。

その後も新しく料理を口へと運ぶたび、「おいしい」と言葉にして伝えてくれた悠悟さん。

私はただただうれしくて、なんだか泣きそうになりながらその度に「ありがとう」とお礼を言って。

……今日思いきって、悠悟さんを家に招いてよかった。

きっと普通じゃない関係のはずの私たちは、それでも和やかに、食事を楽しんだのだった。
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