イジワル部長と仮りそめ恋人契約
「そろそろ帰るな。ごちそーさん」
「え、あ……は、い」
間の抜けた返事をしつつ、ソファーから起き上がる。
さっさと玄関へと向かう悠悟さんの背中を慌てて追いかけながら、私は先ほどの至近距離を改めて思い出しひそかに頬を熱くした。
な……なんだったんだろう、さっきの。
ただ単に、私をからかっただけ? でもなんとなく、悠悟さんの目が、一瞬本気だったような……。
「わざわざ外に出なくても、ここでいーよ。女ひとりじゃ危ないから」
シューズボックスからサンダルを出してマンションの下まで見送ろうとしていた私を、彼はあっさり制する。
悠悟さんに、女扱いされている。そう思い知らされただけで、また身体が火照った。
「あの……来週の、土曜日の。時間とか場所とか、また連絡しますね」
「おー」
黒いスニーカーを履いて、悠悟さんがこちらを振り返る。
あとは、お別れの挨拶をするだけ。なのに彼と目を合わせたら、言葉が詰まって何も言えなくなってしまった。
私を見下ろして、悠悟さんは困ったように笑う。
「……なに? まだ、帰って欲しくないとか?」
言いながら、その大きな手がおだんごにした私のうなじの後れ毛に触れる。
くすぐったさに、ピクンと反応した。それでも彼の質問に答えることなんかできなくて、下くちびるを噛む。
「あのな、志桜。そういうカオは、ホントの彼氏相手じゃないとしちゃだめだぞー」
「……そういうカオって、どんな?」
ちょっぴりおどけた調子で続けられた言葉に、ようやく質問を返した。
それを聞いて、彼は口もとに笑みを浮かべたまま目を細める。
「ん? キスしたくなるカオ」
つぶやいた瞬間、私のうなじに回した手を悠悟さんが引き寄せた。
綺麗な顔が、目の前にある。そう思ったとほぼ同時に、くちびるがやわらかいものと重なった。
今自分が触れているやわらかいもの、イコール悠悟さんのくちびる。
それを理解したとほぼ同時に少しだけ顔が離れ、目と鼻の先にいる彼が魅惑的に微笑んだ。
「は、間抜け面」
こっちの返事なんて、最初から聞く気もない。それくらいの性急さで、再度くちびるを塞がれた。
先ほどは驚いて目を開きっぱなしだった私も、今度は静かにまぶたを下ろす。
行き場を失っていた両手で悠悟さんの腕のあたりにぎゅっとすがりつくと、キスの角度が変わってより深くなった。
彼が私にこんなことをする理由がわからないのに、それだってどうでもよくなるくらい夢中になる。
舌を絡める、淫靡なものではない。だけどただくちびるを合わせるだけより、いやらしくて熱っぽい。
二度目のキスに酔いしれながら、私はそのとき初めて、この人に恋をしてしまったのだと悟った。
「え、あ……は、い」
間の抜けた返事をしつつ、ソファーから起き上がる。
さっさと玄関へと向かう悠悟さんの背中を慌てて追いかけながら、私は先ほどの至近距離を改めて思い出しひそかに頬を熱くした。
な……なんだったんだろう、さっきの。
ただ単に、私をからかっただけ? でもなんとなく、悠悟さんの目が、一瞬本気だったような……。
「わざわざ外に出なくても、ここでいーよ。女ひとりじゃ危ないから」
シューズボックスからサンダルを出してマンションの下まで見送ろうとしていた私を、彼はあっさり制する。
悠悟さんに、女扱いされている。そう思い知らされただけで、また身体が火照った。
「あの……来週の、土曜日の。時間とか場所とか、また連絡しますね」
「おー」
黒いスニーカーを履いて、悠悟さんがこちらを振り返る。
あとは、お別れの挨拶をするだけ。なのに彼と目を合わせたら、言葉が詰まって何も言えなくなってしまった。
私を見下ろして、悠悟さんは困ったように笑う。
「……なに? まだ、帰って欲しくないとか?」
言いながら、その大きな手がおだんごにした私のうなじの後れ毛に触れる。
くすぐったさに、ピクンと反応した。それでも彼の質問に答えることなんかできなくて、下くちびるを噛む。
「あのな、志桜。そういうカオは、ホントの彼氏相手じゃないとしちゃだめだぞー」
「……そういうカオって、どんな?」
ちょっぴりおどけた調子で続けられた言葉に、ようやく質問を返した。
それを聞いて、彼は口もとに笑みを浮かべたまま目を細める。
「ん? キスしたくなるカオ」
つぶやいた瞬間、私のうなじに回した手を悠悟さんが引き寄せた。
綺麗な顔が、目の前にある。そう思ったとほぼ同時に、くちびるがやわらかいものと重なった。
今自分が触れているやわらかいもの、イコール悠悟さんのくちびる。
それを理解したとほぼ同時に少しだけ顔が離れ、目と鼻の先にいる彼が魅惑的に微笑んだ。
「は、間抜け面」
こっちの返事なんて、最初から聞く気もない。それくらいの性急さで、再度くちびるを塞がれた。
先ほどは驚いて目を開きっぱなしだった私も、今度は静かにまぶたを下ろす。
行き場を失っていた両手で悠悟さんの腕のあたりにぎゅっとすがりつくと、キスの角度が変わってより深くなった。
彼が私にこんなことをする理由がわからないのに、それだってどうでもよくなるくらい夢中になる。
舌を絡める、淫靡なものではない。だけどただくちびるを合わせるだけより、いやらしくて熱っぽい。
二度目のキスに酔いしれながら、私はそのとき初めて、この人に恋をしてしまったのだと悟った。