イジワル部長と仮りそめ恋人契約
5.ラスボスと告白と『さよなら』
待ち合わせは、私の実家の最寄り駅。
約束の時間の15分前に姿を見せた悠悟さんは、駅内のベンチに腰かけていた私に気づいて片手を挙げた。
「よー。お待たせ」
「悠悟さん。……こんにちは」
私が立ち上がって彼を迎えると、悠悟さんは緩く笑って「こんにちは」と返した。
それだけで、きゅうっと胸が甘く締めつけられる。
ちょうど先週の土曜日。玄関での別れ際、私たちはキスをした。
あのときのことを思い出すだけで、頬が燃えるように熱くなる。だって私は、悠悟さんのことをすきになってしまったのだ。意識しないわけがない。
だけど今日まで連絡を取っている間、そして、今も──私たちは、あのキスをまるでなかったことのようにして振る舞っている。
……あたりまえだ。悠悟さんと私の関係は、ただの期限付きの恋人同士。
デートだって、“恋人”として演技をするために違和感のないよう互いに慣れる目的で、義務的にしていただけ。
すべては今日この日、おじいちゃんを説得するため──期間限定で続けていただけの、偽りの関係だから。
「実家は、ここから歩いて10分くらいなんです」
「そうか。今日、晴れてよかったな」
「ほんとですねー」
つい昨日までは雨が続いていたから、自然とそんな会話をしつつ駅を出て歩き出す。
キスのこともあって、『会ったときどんな顔をすればいいんだろう』なんて悶々と考えたりもしたけど……悠悟さんが何事もなかったかのように普通に接してくるから、私もつられて今まで通りの態度でいられた。