イジワル部長と仮りそめ恋人契約
6.期間限定、じゃない恋
「……良かれと思ってやったことなんだ。志桜を追い詰めるつもりなんてまったくなかった。すまないな」
とぼとぼ重い足取りで本家に戻った私を出迎えたのは、いつになくしょんぼりと肩を落としたおじいちゃんだった。
私は腫れて赤くなった目もとを無理やり動かし、おじいちゃんに向かって笑ってみせる。
「わかってるよ。おじいちゃんが、いつも私のためにいろいろ言ってくれてるっていうのは」
「じーさんはともかく、俺そんなに過保護か?」
そんなことを言いながら首を捻るのは、座布団にあぐらをかくお兄ちゃん。
それには苦笑いを返すと、「で、」とお兄ちゃんは腕を組んで続けた。
「おまえのその泣き腫らした顔を見るに、空木くんにはキッパリ振られたのか?」
「なにっ??!」
あっさり放ったお兄ちゃんの言葉に、すかさずおじいちゃんが反応して顔をしかめる。
……なんだ。さすが勘の鋭いお兄ちゃんには、『私は、悠悟さんのことがすきなの』と言ったあのセリフが本気だったって、気づかれてたんだ。
少しだけ考えてから、私は小さく答える。
「……ちがう」
だってあれは、振るとか振らない以前の問題だ。
そんな私の反応に、お兄ちゃんが器用に片眉を上げる。
「なに? じゃあ、どういうことだ」
「私の気持ちは、『気のせい』だって言われた。だからたぶん、告白の返事をもらったとはいえないと思う……」
「なんだと?! あの男、やはり一度花留めにして」
「じーさんは少し黙っててくれ。……なんだそれは。何を七面倒くさいことをやっているんだ、おまえらは」
『花留め』とは、華道において花を活ける道具のことだ。痛そうなおじいちゃんの暴言はさらっと流し、お兄ちゃんが今度は思いっきり呆れ顔をした。
私は口をつぐみ、視線を畳の上に落とす。