イジワル部長と仮りそめ恋人契約
なんだそれ、なんて。そんなの、私の方こそ聞きたい。

『すき』って告白したら、『ごめん』か『俺も』の、どちらかじゃないの?

どうして、最初から私の気持ちをなかったことにされちゃうの?

……悠悟さんの気持ちは、教えてもらえないの?


さっきまではただひたすら悲しかったけれど、考え出したらなんだかフツフツと怒りが沸いてきた。



『志桜さんは素敵な女性です。あなた方の助けがなくても、自分の力できっと幸せを掴むことができる』



あんなふうに、うれしいことを言ってもらえて。

『気のせい』だとか『勘違い』だなんて納得いかない理由で、そんな簡単に引き下がったりできないよ。


お兄ちゃんは、そんな私の心境の変化を目敏く感じ取ったらしい。ニヤリと笑みを浮かべたかと思えば、悪巧みをする表情で自分の顎に片手をあてた。



「志桜は、このまま大人しく引き下がるつもりなのか?」



その問いに、迷うことなく首を横に振った。



「そんなの、無理。まだ、悠悟さんに聞きたいことも……言いたいことも、たくさんあるの」

「さすが俺様の妹だ。俺だって、あんなふうに言われっぱなしなのは性に合わん」



偉そうにキッパリと言いきったお兄ちゃんが、不敵に笑って続ける。



「一之瀬兄妹の本気、あの男に見せてやろうか」



……あんまり、周りの人を巻き込んだり揉めるようなことにはしないで欲しいんだけどなあ。

内心で苦笑しつつ、私はお兄ちゃんの言葉に乗ってうなずいたのだった。
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