イジワル部長と仮りそめ恋人契約
久々に彼の声で聞いた自分の名前は、想像以上に甘くて。

痺れてしまった頭が、使い物にならなくなってしまいそう。



「あ……あの、悠悟さん」

「ん?」



相変わらず彼は私の肩口に顔をうずめたままだから、返事がくぐもって聞こえる。

こくりと唾を飲み込んで、続けた。



「ど、どうしてこないだ……私の家から帰るとき、キスしたんですか?」



それを今このタイミングで訊いたのは、ほとんど賭けみたいなものだった。

ただの気まぐれかもしれない。単なるサービスのつもりだったのかもしれない。

でも、もしかしたら。


ため息をついた悠悟さんが、ようやく顔を上げる。



「そんなの、決まってるだろ」



至近距離で対面した彼は、どこか照れくさそうな、気まずそうな表情で、眉を寄せていた。



「あのときの志桜が、あんまりかわいい顔して俺のことを見つめてくるから──たまらなくなって、我慢できなかったんだよ」



ものすごく、恥ずかしい。恥ずかしいけどうれしくて、つい私はにやけてしまう。

するとそんな私を見て目を細めた悠悟さんに「うるせー笑うな」と容赦なくデコピンされた。やはり彼はドSだ。



「……志桜に、話しておきたいことがある」



じんじん痛むひたいをさすっていると、身体を起こしてベッドのふちに腰かけた悠悟さんが真面目な表情で切り出した。

私はうなずいて、慌ててブラウスのボタンを留めてから彼の横に同じく腰をおろす。

膝のあたりに置いた両手へ視線を落とし、一度ふっと息を吐いてから悠悟さんは話し始めた。
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