イジワル部長と仮りそめ恋人契約
キスの邪魔だったのか、いつの間にか悠悟さんはメガネを外していた。

そしてさっき自分で留めたはずのブラウスのボタンが、ほぼ全開に。……手早すぎます、悠悟さん。



「ふ、う……っむ、胸、ちっちゃくてごめんなさい……っ」

「白くてやわらかいから、合格。あと、感度もいい」



下着のおかげでできたささやかな胸の谷間にくちびるを落としながら、悠悟さんが笑う。

それを見下ろしてぼうっとしていたら、背中のホックをいとも簡単に外された。ほんと、早業!



「顔、隠すな。全部見せて」



あまりの恥ずかしさに両手で顔を覆っていると、やさしく手首を掴みながら甘ったるい声音で悠悟さんがそそのかす。

観念した私が、ゆっくりと手を退けようとしたそのとき──どこからか、スマホの着信音が聞こえてきた。

思わず顔を見合わせる。私のスマホは、マナーモードにしているはずだ。

ということは、この着信は悠悟さんの……。



「で、出なくていいんですか……?」

「……はあ」



ものすごく深いため息をついた悠悟さんが、舌打ちしながらベッドを下りた。

この間も鳴り止まないスマホをビジネスバッグから取り出し、そしてディスプレイを見てますます嫌そうな顔をしてから渋々といった動作で電話に出る。



「はい、もしもし。……ええ、そうです。まあ、うまくまとまりましたよ。近々また、そちらに挨拶に伺います。……は? え? ……あー……はい、ええ、わかりました。わかりましたよ。では、失礼します」

「……もしかして今の、お兄ちゃん?」



会話の途中からなんとなく察していた人物の名前を、彼が通話を終えたタイミングでおそるおそる出してみた。

どうやら、それは当たりだったらしい。乱暴に頭をかいた悠悟さんは否定せず、なんとも苦々しい表情でスマホを睨みつけている。
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