イジワル部長と仮りそめ恋人契約
あの日と同じ窓際のテーブルの前に、あの日見た男性の姿があっただけ。

──それだけだ。それだけで私は、その背中に賭けてみたくなってしまった。



「優しそうな……素敵な人だなって、記憶に残ってたから。だからもし偽恋人役を断られたり、あの場だけ凌いで結局お見合いをすることになったとしても、最後にあの素敵な人とお話できたならまあいっかって割り切れると思ったから……勇気を出して、声をかけたんです」



話し終わってから羞恥に耐えきれなくなり、掛け布団を鼻先まで引き上げる。



「ひ、引きました……?」



上目遣いにおそるおそる訊ねてみると、悠悟さんの反応は予想とは違っていた。

今日この部屋に入った直後と同じように、片手で目もとを隠しはーっと深く息を吐く。



「引いてはないけど、後悔はした」

「え」

「そんなかわいい隠し事、今知れたところで手ぇ出せないって……」



言いながら再度ため息をつき、ベッドに横たわったまま私を抱き寄せる。

あわあわとしながら、それでも同じようにその背中へと腕を回した。



「残念だったな、俺の中身が思ってたのと違って」

「お、思ってた以上だったので、ご心配なく!」



少し息苦しい胸の中、熱い顔で言い返すと、小さく笑って私の頭のてっぺんにキスを落とす。

もう、期間限定じゃない。偽物でもない。

たまに意地悪だけど最高にかっこいいこの人が、私の最愛の恋人です。










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