好きの海に溺れそう
「あたしの部屋一択」

「海琉くん、いいの?」



杏香さんが確認するように俺を見た。



俺は杏光と一緒の方が嬉しいので…。



なんて言えるはずもなく、「悠麗に悪いから」とごまかした。



リビングのソファに寝転がってる悠麗は、そんな俺を見てあきれ顔…。



バレてる…。



杏光もちょっとニヤニヤしてる。



幼なじみ、隠してもすぐバレるから困る!!



杏香さんから布団を預かって、杏光がお風呂に入ってる間に杏光の部屋に敷いた。



そのまま布団でごろごろしてたら、お風呂上がりの杏光が入ってくる。



お風呂上がり特有の良い匂い。



無意識に引き寄せた。



ちょっと意表をつかれた顔をした杏光が、すぐに嬉しそうな顔をして俺にもたれかかった。



幸せな時間…。



修学旅行で離れた時間、俺もかなり寂しかったんだな…。



結局、敷いた布団は無駄になって、杏光のベッドで二人で一緒に寝た。



杏光と向かい合って、月明かりに杏光の顔を見ながら静かに会話するこの時間がすごく大切に思えて。



気づけば二人、眠りについてた。



次の日は、杏光は振替休日で学校がないけど、俺は学校…。



起きたら、杏光がいなかった。



寝坊と思ったけど、まだ七時だ。



部屋を出てリビングに行くと、杏光がエプロンをしてキッチンに立ってた。



「あ、海琉おはよー」

「おはよ…。何してるの?」

「海琉にお弁当作ってるの!」



ほんとに…?



嬉しい…。



恋人からお弁当を作ってもらいたいなんて話は聞いたことあったけど、こんな嬉しいものとは…。



杏光の隣に立った。



「旅行帰りで疲れてない?」

「全然!それより海琉にお弁当作ってみたかったの」



言いながら、俺に卵焼きを菜箸で取って味見させる。
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