好きの海に溺れそう
「大丈夫だからほら、掴まって!」



海琉があたしの身体ごとぐいっと引き寄せて、足が地面に着いたら一緒に立ち上がった。



海琉に支えられながらなんとか邪魔にならないところまで滑るあたし…。



「ごめん…」

「いいよ、毎年のことじゃん。大丈夫? いけそう?」

「うん…」



海琉ってほんとに優しいと思う。



それからも海琉は下手くそなあたしと一緒にずっと滑ってくれた。



嫌々やってるわけじゃないのはすぐにわかって、それがまた嬉しい。



海琉を好きになる前のあたしってほんとにバカなんじゃないかと思う。



そして、こんなあたしを好きになってくれた海琉も。



大好き…。



夕方になってスノボを切り上げて、ホテルに戻った。



部屋は4つ取ってて、部屋割は親の女子部屋と男子部屋、あたしたちの女子部屋と男子部屋だ。



思春期の男子(主に悠麗)を家族部屋に泊まらせるのはかわいそうだという親の配慮。



「海琉、一緒にお風呂入ろ-」

「え、ちょ、な…なに?」



男子部屋にあたしがノックもせずに乱入したら、海琉が上の服を脱いでる途中だった。



いやん…。



悠麗はお風呂に入ってるらしく、シャワーの音が聞こえる。



「お風呂…一緒に入ろうよ…」

「な、なに言ってんの?」



明らかに動揺する海琉。



顔が赤くなる。



あんなことしといて今更顔赤くなるとか意味が分からない。



「入らないの? 一緒に!」



あたしがそう言ったら、突然後ろの開けっぱなしのドアからお父さんが入ってきた。



「おっまえ何言ってんだよアホか! 海琉も服脱いでんじゃねえ!」

「は? 小太郎には関係ないでしょ」

「親のこと呼び捨てにすんなよ!」



うるさ…。



「いいから出てってよ」

「ふざけんなよお前付き合うのは認めても一緒に風呂とかぜってー認めねえからな」

「は!? 小太郎に決められる筋合いないから!」



この不毛な親子げんかに口を挟んだのは海琉だった。
< 142 / 350 >

この作品をシェア

pagetop