好きの海に溺れそう
だけど、杏光は静かに俺の目を見た。



「そこの…クローゼットの一番下にある…」

「なんであるの…」

「いつ何があってもいいように…」



…。



そのまま杏光と2人の世界。



「ん…海琉っ…」



何回名前を呼ばれたんだろう。



俺も何度も杏光の名前を呼んで。



終わってから2人で何も着ずに布団にくるまるこの時間。



時おり抱きしめ合うこの瞬間。



ふいにするこのキスも。



「全部あたしだけの宝物…」



俺と同じこと考えてる…。



夜になってみんなが帰ってくる前に、俺たちは服を着た。



「髪、ボサボサだよ」

「とかしてー」



ブラシを杏光に渡されて、後ろからとかした。



最後に後ろから杏光を抱きしめる。



「海琉からとか珍しいね」



目の前の杏光が大事すぎるから…。



「チューして?」



杏光に言われて、抱きしめたまま頬にキスした。



そのままの状態で2人でくっついてたら、家のドアがガチャガチャ音がした。



慌てて身体を離して、鍵をかけたことを思い出す。



鍵の開く音がした。



「ただいまー」



帰ってきたのは杏香さんと小太郎くん。



杏香さんのうしろからリビングに入ってきた小太郎くんは仏頂面だ。



怖い…。



「なんで鍵かけてんだよ」

「強盗に襲われたらやだなーと思って」

「そうか、おめーの彼氏は強盗から守ってもくんねえのか」

「海琉があたしのためにケガするなんて耐えられないもん」

「じゃあなんで今海琉の顔があけえんだよ」

「知らない。暑いんじゃなーい?」
< 152 / 350 >

この作品をシェア

pagetop