好きの海に溺れそう
スマホを少し遠くに投げて置く。



「ん~! ギュ!」



杏光が俺を力一杯抱きしめた。



バレンタインって幸せかも…。



俺も、抱きしめる杏光の手に自分の手を絡めて繋いだ。



しばらくそうしてたら、ピンポーンと音がした。



それからお母さんたちの声が聞こえる。



「ええ~? ほんとに? ありがとー!」

「いいのいいの、思った以上に量あって…」

「何なら霜さんも呼んでみんなで食べない?」



えっほんと?



杏光と顔を見合わせた。



それ楽しいかも…。



しばらくしてごはんができたから呼ばれた。



リビングに行くと俺の両親もいて。



6人でごはん?



杏光を見たら、「結婚前の両家顔合わせみたいで楽しいね!」と笑った。



確かに…。



「今日は持ち寄り形式で一緒に食べることになりましたー!」



杏香さんがワクワクした表情で言った。



「座ってー!」



言われるまま、杏光と向かい合って座る。



「なにげにこうして一緒に食べるのも久しぶりじゃない!?」



杏香さんが嬉しそうに言う。



嬉しそうに笑う顔が杏光に似てる。



でも確かに、昔はたまにこうして一緒に食べてた気がする。



それにしても、彼女の両親とごはんを食べてるのに緊張感がゼロだなあ。



彼女の親というより、この2人は近所のよくしてくれるおじさんおばさんって感じだ。



そんなこと考えてたら、急にテーブルの下から杏光の足が俺の足に触れてくすぐり始めた。



何やってんの!?



杏光を見たら、何食わぬ顔で親たちと喋ってる。



どうせ、面白いからいたずらしよって思ったんでしょ…。



俺が頑張ってくすぐりに耐えてたら、「?」という顔で、親たちが喋りながら俺をちらっと見た。
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