好きの海に溺れそう
1回か2回、顔を見たことがある。



とっさに杏光の手を引いて前に出た。



「こんにちは」



とりあえず挨拶する。



その人…夏樹さん?は、ぺこっと頭を下げる。



「彼氏、いい人そうじゃん」

「うん、大好き」

「そっか…。お幸せに」

「夏樹も! あのとき、夏樹の気持ちあんまり考えられずに本当にごめんって思ってる…。だから、夏樹も幸せになってね」



少しだけ笑ってうなずいた夏樹さんは、そのまま「じゃあな」と手を振っていなくなった。



俺の知らない「恋人」としての時間があった2人…。



杏光の元彼については考えないようにしてたけど、こうして出会うのは初めてで…。



どうしようもなく、嫌な気持ちでいっぱいだ…。



「海琉? ごめんね。嫌な気持ちになったでしょ」

「好き…」



杏光の手を引っ張って手の甲にキスした。



そんな俺の頭を杏光が撫でた。



「あたしの方がもっと好きだよ」

「そんなことないよ」



お互いにそう言い合って笑った。



これじゃバカップルだ。



そこに、空から雨が急に降ってきた。



ポツポツと降ったのは一瞬だけで、すぐに大雨…。



傘とか持ってない!
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