好きの海に溺れそう
「え? どういうことですか? 困ります…」



杏光が起き上がって部屋の隅に行ってしまった。



俺をちらっと見ながら少し小声で話す。



「はい、…はい。…わかりました。はい、大丈夫です。失礼します」



どうしたんだろう…。



杏光は物凄く複雑な暗い顔でこっちにすすす、と歩いて正座した。



唇を噛みながらちょっとうつむき気味…。



ぎゅっと硬くしてる杏光の手の上から自分の手を重ねた。



「大丈夫?」

「…海琉に謝らないといけないことがあります」

「どうしたの?」

「会場側の手違いで、会場の下見が24日以外できなくなった…らしい…」

「…そっ…か」



正直とてもショック…。



でも、杏光が責任持ってやらないといけない仕事なのは理解してるし、仕方ないことだよね…。



それに、杏光自身もショックだよね…。



こういうことも…ある。



「俺のことは気にしないで? 仕事がんばりな?」

「まじごめん…。多分、下見とセットで設営の打ち合わせがあるから…夜まで帰れない…」



物凄く暗い顔をしている杏光の頭を撫でた。



「杏光の初めての仕事なんだもん、応援してるよ」



俺がそう言ったら杏光が俺を抱きしめた。



俺も抱きしめ返す。
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