好きの海に溺れそう
何も言えなくて、杏光がおしるこの缶を開けて飲むのをじっと見つめていた。



聞くのが怖い…。



一口飲んでから、杏光がまっすぐこっちを見た。



「あたし…家をね、出ようと思うの」

「え…?」



家を出る…?



それって…。



「家を出て、一人暮らし…しようと、思ってる…」



全く予想もつかなかった言葉。



何を言えばいいのか、どんな感情になるべきか、何も追いつかない…。



生まれたときからずっと杏光と一緒にいて、離れたところで暮らすなんて考えたこと1回もなかった。



それが突然、どうして…?



「今回のことを通して、あたしが何をやりたいのか、どんな大人になりたいのか、はっきりとわかった」

「…」

「それで…。あたし、成長したいって、一人前になりたいって思ったの」



真剣な杏光の言葉。



でも、それと家を出ることになんの関係があるの…?



「仕事も、もちろんあたしがやりたいと思ってやらせてもらうことだけど、結局は親のコネ入社でしょ? そういうのもあって…あたし、自分では何一つできていないなって気づいたの」

「そんなこと…」

「そんなことあるよ。あたし、外の世界を何も知らない」

「…」
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