好きの海に溺れそう
杏光の目に少しこぼれた涙を、指でぬぐった。



杏光の目を優しく見る。



「でも…。杏光のこと、俺は同じくらい、本当に心から応援してるの」

「…」

「杏光、自分が今、家を出た方がいいって思っているなら…そうしな」

「海琉…」



俺が、杏光の成長の邪魔になっちゃだめだ…。



杏光が大人になるなら、俺も、少しだけでも大人にならなきゃ…。



「あのね、杏光。長い目で見たらこんなの一瞬でしょ?」

「一瞬…」

「だって俺、杏光と結婚したいもん。結婚したら毎日一緒にいられるでしょ?」



俺がそう言ったら、杏光がもう一度強い力で俺を抱きしめた。



俺も強く抱きしめ返す。



「海琉大好き…」



抱きつく杏光の頭を静かに撫でて、頭にキスした。



俺の首筋に顔をつける杏光の頭に、俺の顔をくっつける。



「ありがとう…海琉」



2人でしばらく、寒い冬の空の下、そうしてくっついてた。



杏光がすぐ会える距離にいないなんて考えられないし、そんな生活に慣れてしまうのも嫌なくらい。



だけど、杏光のことを好きな気持ちだけは絶対に変わらないから。



杏光の成長を心から応援しよう。



こうして、杏光の一人暮らしが決まった。



小太郎くんと杏香さんに伝えたら、2人とも快諾。



むしろ、俺と離れて良いのかとそっちを心配された。
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