好きの海に溺れそう
「ここはどうですか? 利便性があまり良くない分、部屋のつくりは全体的に広いですよ」

「あ、良い感じですね! 収納スペースもたくさんあって嬉しい」



杏光は結構気に入ったみたいだけど、俺は反対。



「ちょっと道に街灯少なくないですか…? 人通りも少なそうだし、危ないからだめです」



そんな感じで1日中物件をへとへとになりながら回った。



でも、1日まわった甲斐があり、杏光は気に入る物件を見つけたみたいだ。



駅から徒歩10分くらいのところにある、1Kの4階建てマンション。



比較的広めで綺麗だし日当たりも良くて、大通り沿いにある。



治安も悪くなさそうだし俺も安心!



他の人に取られないようにと、すぐに申し込みを済ませた。



杏光が俺の家から離れたところに住むのは寂しいけど、新しい生活のための新居選びを一緒にするのはワクワクした。



絶対頻繁に行くもん…。



そしてついに、卒業式の日になってしまった。



杏光と一緒に学校に行くのも今日が最後…。



杏光とはもちろんこの先も一緒にいるけど、その事実が物凄く悲しい。



少し気持ちが落ち込んだまま、仕度を済ませて家を出た。



ちょうど同じタイミングで、隣の家から杏光も出てきた。



「おはよ」



俺があげたマフラーに、いつもの制服とコート。



この姿を見るのも、今日で最後。



って、あれ…?



「杏光、マフラー…」

「へへ、そうなの。さっき自分でやってみたら出来ちゃった」
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