好きの海に溺れそう
部屋の鍵を開けて2人で家に入った。



と、その瞬間、ドアが閉めきらないうちに、壁際に押しつけるように海琉があたしにキスした。



「かい…る?」



ちょっと驚いて海琉の顔を見た。



玄関でキスが続く。



牛乳の入ったレジ袋とあたしのバッグはもう下に落ちている。



「もうシチューとかいいや…」



唇を一度離した海琉は、そう言ってからもう一度あたしに強めにキスする。



あたしもそれを受け入れた。



海琉の不安な気持ちを少しでも消化できるように…。



そして、あたしの不安な気持ちもなくなるように…。



海琉は優しくて大人だから、自分が不安に感じてることはあたしに言わない。



あたしのこと応援しようとしてくれてるから。



だけど、それが海琉の負担になっているのもわかってる…。



キスを続けながら靴を脱いで家に入る。



少しよろけそうになりながら、部屋に入って、そのままベッドに押し倒された。



上にまたがってから、あたしの上に倒れ込んだ。



「……俺以外に『おかえり』って言わせないで…」



耳元で、かすれるような声で海琉が言った。



その声はとても切ない…。



これまでの不安感が一気に溢れてしまったような、そんな声。



さっきの瀬野くんの『おかえり』が海琉の中の引き金になってしまった…。



あたしは海琉の背中を両手でぎゅっと抱きしめた。



それから2人で2回か3回、体を重ねた。
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