好きの海に溺れそう
好きの海に溺れそう
~海琉~

「じゃあ俺行ってくるね」

「はーい! 頑張ってね~」



8月の金曜日の朝。



机で勉強している杏光に手を振って俺は出勤した。



24歳、調理師になって5年目。



前よりも少し広い部屋で杏光といまだ同棲中だ。



杏光は、社会人としては7年目。



入社前からずっと続けてきたアマチュアの写真展は、今ではアマチュアの登竜門と呼ばれるようになった。



その業界では知らない人がいないくらい。



プロを目指すなら、まずはそこからって言われてるみたいだ。



ある程度の目標を達成した杏光は、大学で勉強したいと言って、今は働きながら通信制の大学で勉強している。



経営のこととか、一般的な教養とか、そういうのをちゃんと学びたいって。



お互いめちゃくちゃ忙しい。



まず、調理師の仕事が本当に忙しい。



朝から夜までずっと働いて、休みもほとんどない…。



一年目のときよりはマシになったけど、それでもやっぱり忙しい。



杏光の方も、日中は仕事で忙しそうにしているし、それ以外の時間は大学の勉強で忙しそう。



それでもずっと一緒に住んでるから、寂しさみたいなものは感じないかな。



毎晩同じ布団でくっついて眠って、たまに一緒に買い物に出る。



それが俺たちの幸せな日常。



1日働いてから夜遅くに家に帰ったら、杏光が机でパソコンと向き合ってた。



レポート課題に追われてるんだって。



俺を見て笑顔になった。
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