好きの海に溺れそう
夏樹と一緒に、少しさびれてる公園のベンチに座る。



そこではじめて、まっすぐと夏樹の顔を見つめた。



夏樹は笑顔だ。



でも気づく。無理してる…。



夏樹は分かってるんだ。



これからあたしに何を言われるのか。



「夏樹…あのね…」

「待って。何か飲む?」



そう言って立ち上がろうとする夏樹。



あたしはそんな夏樹の腕を掴んで座らせた。



「飲まない。ねえ、話し、聞いて?」

「うん…」



小さい声でそう言った夏樹。



あたしは重い口を開いた。



「あの…ね…」



別れ話をするのって、いつでもとってもキツい…。



「あたしと…」



言葉がなかなか出てこない。



でも、いつまでもウジウジしてるのはあたしじゃない。



もうさっさと言ってしまおう。



「別れよう」



喉の奥深くから吐き出すように出たその言葉は、心臓の圧迫をやっと解放した。



だけどその分、重く響いていた心臓の音は、軽やかにスピードを増した。



「やだ」



夏樹が苦しそうな笑顔で言った。



「無理だから、俺そんなの」

「無理じゃない…」



あたしの前に立つ夏樹。



「無理って言ってんじゃん…」



そう言って、夏樹はあたしをきつく抱きしめた。



もうキュンとしたり、海琉みたいなドキドキはしない…。



苦しい…。
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