好きの海に溺れそう
「杏光! どうしたの?」



席を案内しに来た日夏があたしを見てびっくりしてる。



きつめの顔の美人な日夏には、かわいいフリルの制服は似合ってない。



「会いたくなっちゃった」



あたしがそう言ったら、日夏はあきれた顔をした。



「連絡してくれればバイトない日とかバイト後とかに会えたのに。あたし今日21時までだよ?」

「いいの。今来たかったから」

「まぁいいけど…。じゃ、お好きな席にお座りください」



日夏がそう言っていなくなったので、あたしは店内を見回した。



あれ? あの人…。



「あのー…」



前に海であたしと日夏をナンパした人が一人でいた。



日夏に一目惚れしたって言ってた人だ。



名前は確か…。



「あ…ゆむ?」

「あ、こないだの、日夏の…」



そうだ、歩。



歩はあたしが誰だかすぐに分かったみたいだ。



「何してんの?」

「この前、たまたまこの辺きて、ちょうどこのファミレス入ったら日夏がいたんだよ」



へー…。



話を聞くと、その日から週に1回は通ってるみたいだ。



「座れば?」



歩が言ったので、遠慮無く歩の前に座った。



「本当に日夏のこと好きなんだね~」

「会いたくてしょうがなくなるから、すげえ好きなんだろうな…」

「あ、それすごいわかる。あたしも今、好きな人と2週間会えてない」



まだ会って二回目なのに、歩とはすごく喋りやすい。



多分、お互い片思いの身だから共感しやすいんだ。



「付き合ってれば、会いたいって言えば会えるのにね」

「あれ? 彼氏なんじゃねえの? この前彼氏いるって言ってたよな?」

「あー…。いや、あたし、別に好きな人できちゃって…」

「あー、なるほどな」

「んで2週間前にね、告ったの。そしたらさ、ずっと幼なじみだったから会えないとつらくて」
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