好きの海に溺れそう
悠麗は、その別れた彼女さんのこと…まだ好きなんだよね、きっと…。



だから苦しくて、荒れてしまってるんだろうな…。



杏光がちらっと玖麗の方を見ると、玖麗がつぶやいた。



「あたしは、悠麗のこと…好きだからこそ、悠麗がその彼女との関係が元に戻ることを願うよ…。苦しむ悠麗は見たくない…。」



切なそうな顔で言う玖麗。



って、え、ちょっと待って…!?



好きって言った…?



「好きってなに…?」

「あたし…悠麗がずっと好きだったんだ…」



少しバツが悪そうな玖麗。



全く知らなかったし気づかなかったよ…。



驚きを隠せない…。



でも、杏光が俺のこと好きだって玖麗が言われたときもこんな気持ちだったんだろうな…。



杏光は驚いたままの俺を置いといて続けた。



「悠麗の気持ちも、玖麗の気持ちもどちらもすごくわかる…。でもね玖麗、あたしは玖麗が苦しんでるのを見るのも嫌だよ」



優しい顔の杏光。



「みんなが一番幸せになる道が見つかればいいね?」



杏光はそう言って玖麗の頭を撫でた。



玖麗が複雑そうな顔をしながら、なんとかゆっくりうなずいた。



杏光はにこっと笑って急に大きい声を出した。



「よーし、もうこんな暗い話しやめよ!玖麗も1回頭切り替えよ」



そのとき、家のドアが開く音がした。



「ただいま…」



悠麗だ。



中に入ってきた悠麗は、俺たちを見る。



「みんなそろって何やってんの?」

「玖麗がまた野菜持ってきてくれたの」

「マジ!?玖麗サンキュ」



こうしてると普通だけどな…。



「あ、じゃあさ、みんなで晩ご飯食べよ。海琉に作ってもらって」



杏光がそう言って、期待のこもった目で「ねっ?」と俺を見た。



しょうがないな…。



「冷蔵庫何入ってるの?」



言いながら立ち上がって冷蔵庫の方へ歩く。
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