好きの海に溺れそう
「歩」

「出てあげればいいじゃん」



日夏はため息をついてスマホを耳に当てた。



「なに?え?聞こえない!」



日夏の大きい声が聞こえたかと思ったら、その声はどんどん遠ざかって行った。



あっちに行ったみたいだ。



しばらくしたら帰ってくる日夏。



「一緒に見たいとか言ってきたんだけど」

「ここ呼べばいいじゃん」

「一般客入れないし」

「じゃあ行ってきてあげなよ。あたしここから動きたくないし歩も日夏と二人がいいんでしょ」



日夏は考えてるみたいだ。



あたしは構わず応援のダンスを見てる。



曲が切り替わってペアダンがはじまった。



「ねえほら、るみちゃん隣にいるんだけど!」

「ねえ、あたし行ってこようかな。かわいそうだし」

「行ってきな!歩喜ぶよ」



日夏から行くなんて珍しい…。



日夏ってツンデレって生き物だからなかなかそういうの行きたがらないし。



今日は体育祭でテンション上がってんのかな。



でもそれより今はペアダン!



楽しそうに踊ってんじゃないよ、海琉!



手つないでるみちゃんのことを回してる海琉。



楽しそうだしなんか見てるのつらい…。



体育祭だし楽しいに決まってるんだけど、あたし以外の女の子と楽しそうにしてるところを見るのはやっぱりちょっと…きついよ…。



そもそも、海琉が今まで好きになったのはるみちゃんみたいなタイプで、あたしとは正反対なんだ…。



さっきまであんなに嬉しい気分でいっぱいだったのに一気に気分が落ちてしまった。



気づいたら海琉たちのカラーは終わっていて、次のカラーがはじまっていた。



「杏光?」



背後から海琉の声がした。



振り返るとにこにこした海琉。
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